就労環境は看護師に酷似
センター従事者の高離職率に着目
──コールセンターに着目された理由は。
山田 離職率が非常に高い職場だと聞いたからです。私たちは以前から看護師のケアを行っていますが、この職種は年間の平均離職率が12〜13%、国立病院で7%、民間の過酷な病院で20%、3年経てばほぼ人が入れ替わるという状況です。また女性が多い職場であり、求められる業務内容も高度です。これを踏まえると、コールセンターは看護師の職場と非常に似ていると思いました。また、コールセンターは1990年代以降に登場した新しい職場であり、メンタルヘルスに関しても新しい視点が必要ではないかと考えたのです。そこで、まずはストレスに関する身体的・精神的健康度測定の標準化尺度である「GHQ-28」の評価を実施しました。その結果、受診したセンター従事者の3分の2に“うつ傾向”に近い数値が現れました。これは他の職種と比較しても圧倒的に高い割合です。つまり、客観的にストレスフルな職場であると確認できたわけです。
ただし、調査票に記入する様子や面談から受けた印象は、センター従事者は押し並べて賢く正直そうで対話中のリアクションも高く、うつ傾向はあまり感じられませんでした。異常に数値が高いのは「自分たちの仕事は大変なんだ」と自覚し周囲に訴えているのだと思われます。GHQ-28は自覚症状を調べるもので、ストレス度が高くても上手く対処できている人が多いのでしょう。とは言え、離職率が高いのは事実ですので、ストレスマネジメント教育導入の必要性はあると思います。そこで、コールセンター構築・運営のコンサルティングを行うプロエントコミュニケーションズの協力を得て、コールセンター向けのストレスドックと教育プログラムを開発しました。
──実際に実証実験も行われているということですが。
山田 大手アウトソーサーやインハウス企業にご協力いただいています。導入手順としては、オペレータやスーパーバイザーのストレスチェックを行い、その部署の特性評価もあわせて業務改善などにつなげます。一方、ストレスマネジメント教育を実施してストレスへの理解と対処を身に付け、うつ・離職・自殺予防を行います。また、お互いのサポート方法について学習したり、自己主張の大切さやコミュニケーション方法を学びます。電話応対の仕事をしていても、社内コミュニケーションが上手くいっていないケースは意外とあります。さらに、医師へのかかり方なども伝えます。
高要求度・サポート不在・裁量権なし
3つのストレッサーを抑制する
──コールセンターは特殊な仕事と言われがちですが、特有のストレッサーやストレス反応はありますか。
山田 業務特性上、職業性ストレッサーになると誰もが考えがちなのはクレーム対応ですが、実はストレス反応との関連性は低いことが判明しています。これは、クレームを受けるのも仕事の一部であり、本人の気持ちの切り替えや上司のフォローがスムーズにいくためと考えられます。むしろ職業性ストレッサーとして重要なのは、職場内のサポート不在です。何か困った時に職場の先輩・同僚からのサポートが得られないことで激しい不安を感じます。また、仕事上のミスを厳しく指摘される、仕事の要求度が高い、時間をマネジメントできないというのも、特有のストレッサーです。ストレス反応は、不安、うつ、怒りや混乱などで現れ、悪化すれば電話を取るのが恐い、出勤したくないという欠勤や離職につながります。コールセンター内で正しい知識を持ち、ラインケアやセルフケアの体制をきちんと構築する必要があるわけです。
もう1つ、コールセンター現場をいくつか視察して感じたのは、オペレーション環境を整えている会社が少ないことです。ずっとパソコンに向かって座る仕事にも関わらず、椅子の高さを調整していない、照明がディスプレイに映り込んでいる、おかしな姿勢で業務を行っている。これでは当然、眼精疲労・頸肩腕痛・腰痛・冷え性などのVDT障害が出ます。これらは自律神経失調症によるストレス反応と似ているので、メンタルな原因で起っていると勘違いしがちですが、実は執務環境を整えるだけで改善される場合もあります。照明を取り替える、椅子にアームレストやネックレストを付ける、個別空調にするなど、コストの問題はありますが、ある程度オペレータの意向を汲むことも大事です。なぜなら、裁量権の欠如も大きなストレッサーだからです。
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