――現在の通信販売市場を取り巻く状況を教えてください。
三田 通販市場は、1998年に一度底を打ち、以降はずっと右肩上がりで成長しています。日本通信販売協会(JADMA)の調査では、2008年度の市場全体の売上高は推計で4兆1400億円、対前年度比6.7%増と好調です。これは、カタログ通販、TVショッピング、Eコマースなどの物販を伴なう通販事業をまとめたものです。一方、経済産業省は「電子商取引に関する市場調査」で、消費者向けのEコマース市場は6兆1000億円と算出しています。こちらはEコマースのみですが、金融・旅行・音楽配信などの無形サービスを含みます。同じような調査でも、通販という領域をどう捉えるかで、市場規模は大きく異なります。逆に言えば、非常に実態を捉えにくい。とくにネット通販は、モバイルを含めて小規模事業者の参入が相次ぎ、市場規模を膨張させています。2000年代の通販市場は、TV/ネットが牽引してきたと言えます。
――それは過去形という意味でしょうか。
三田 通販のビジネスモデルを簡単に説明すると、投資事業と回収事業のバランスで成り立っています。カタログ通販で言えば、マス広告による新客獲得は先行投資であり、この費用は既存顧客への販売で回収し、事業としての収益を得ます。しかし、TV/ネット通販は、それ自体が目新しかったこともあり、投資と回収という理屈が不要でした。例えば、TVショッピングなら、司会者が魅力的に商品を紹介し、「コールセンターが混み合っています」といったテロップを流してライブ感覚の販売をウリにしていました。一方のネット通販は、消費者自身が検索することを逆手にとり、SEO対策などを施すことで比較的容易に集客できました。つまり、(商品調達を除く)先行投資がなくても収益を上げることができたわけです。
しかし、その時代も終わりを告げました。TVショッピングは、業界大手の成長が鈍化し、一段落ついたという印象です。ネット通販は新規参入が相次いで競争が激化しており、技術的な対策では限界がきています。つまり、これまでの勢いだけのビジネスではダメで、もっと洗練するための踊り場にきています。従来の一度の販売で利益を出そうとする商売から、データ活用――即ち、顧客との関係性を見直して囲い込み、リピート化して収益を上げる、この収益を投資して新客開拓を図るという、通販ビジネス本来の道に戻っています。とくに、不況時代は投資にも限界がありますので、既存顧客をいかに囲い込むかが重要になります。このため、データ活用とコミュニケーションの重要性が再認識されています。
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