“現場と顧客の視点”を重視した
採用とトレーニングの要諦
――コールセンターのマネジメントについて聞かせてください。
木下 常に心がけているのは「基本を踏まえた実直な取り組みの反復」です。つながりやすさなどのKPIに基づいた科学的なアプローチと、モニタリングやコーチングといったクオリティ・マネジメントが柱になっています。どのセンターでも行っている取り組みで、特別なことは実施していないと思います。
クオリティ・マネジメントは、お客様と接する人材であるコンサルタントの採用と教育が大きなポイントです。採用の段階で、お客様の気持ちや感情を感じ取れる能力、つまりソフトスキルを発揮できる人材を見出すことが肝要です。加えて、コンサルタントに適切にフィードバックできる教育体制を重視しています。
――コミュニケーション能力をはじめとしたソフトスキルは、採用の段階で見抜くことが難しいとされています。そのポイントを教えてください。
木下 大前提となるのは“選ぶ側”が適切な人材でないといけないということです。もちろん、専門の人事スタッフもいますが、ここでは現場のチームリーダー(一般のコールセンターにおけるスーパーバイザー)が大きな役割を果たしています。お客様のニーズを一番理解しているのは、常に現場に立っているチームリーダーです。彼らの視点で採用基準を設けることが、お客様に感動を与える対応の実現に役立つと考えています。
――“感動体験”の実現レベルを測る指標は具体化されているのですか。数値化はかなり困難と思うのですが。
木下 これは、お客様に直接うかがうこと以外に方法はありません。そこで、Eメールを利用した顧客満足度調査を常に実施しています。この調査は世界共通の設問となっており、各国間でのベンチマーキングも行っています。基準は5段階評価で、トップ・ツー・ボックスとボトム・ツー・ボックスを徹底的に分析します。目標は前者が90%、後者は一ケタ台ですが、その達成だけが実施の目的ではなく、トレーニングの素材として活用することも大きな目的です。具体的には、調査の結果を受けて音声ログをレビュー、つまりモニタリングすることで、「どのような行為がお客様にどのような印象を与えているのか」を洗い出し、それをコンサルタント個人に紐付けて検証、チームリーダーを通じてフィードバックしています。
つまり、採用とトレーニングという“感動体験のためのクオリティマネジメント”の中核に存在するのがチームリーダーであり、彼らは会社のなかでも極めて重要な存在と認識しています。
――コールセンターの運営側が一方的に考えた基準によるモニタリングではないという印象を受けますね。
木下 一般的なモニタリング要素である名乗りの有無やNGワードの有無のチェックはもちろん重要です。しかし、モニタリングで最も大きなポイントとすべきは「お客様の反応」です。多くのコールセンターで、対応しているスタッフの声の質や口調をチェックすることは当然のように行われていると思いますが、実はお客様の声質や口調が変わる―つまり“会話の質”が変わるポイントがあるのです。
こうした会話を全員で共有するカリブレーションを行うことで、「他人から学ぶ」という自主的な向上心を育むことにも着手しています。この3〜4年、会社全体でワークショップやトレーニングを繰り返し行ってきましたが、ようやく“Customer
Engagement”の意識が定着してきたと考えています。
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