マーケティング戦略がご専門ですが、そもそもCRMとの関わりは。
松下 米国でドン・ペッパーズが『ワン・トゥ・ワンマーケティング』を提唱したのが1997年。その後、98年、99年にかけて日本ではメガバンクが合併する中でワン・トゥ・ワンとともにCRMという言葉が初めて出てきました。当時はCRMというよりワン・トゥ・ワンがトレンドでした。ちょうどその頃、私はあるコンピュータ会社といっしょに、携帯情報端末によるモバイルとワン・トゥ・ワンの仕組みを、シームレスに結び付けるシナリオを作っていました。これがその後、CRMの仕事を数多く手がける最初でした。
いずれにしてもCRMが登場して5、6年経つわけですが、今改めて「CRMとは何なのか」「はたして効果はあるのか」が問われています。なぜそう言われるのでしょうか。
松下 1つは、インフラの普及に対する期待感と現実の差です。携帯電話ユーザーは当時でも約6000万、インターネットも普及していました。しかし、iモードをどう使いこなしらよいか、また、それにふさわしいコンテンツが配信できているかとなると、まだまだでした。もう1つはコストの問題です。CRMがいち早く進んだのは金融機関ですが、99年当時のシステムコストは高額で、金融以外ではなかなか手が出せませんでした。その後導入コストが大幅に下がり、流通、一般サービス業へと広がりましたが、その効果が見えるのはいよいよこれからです。
そして3番目は、ワン・トゥ・ワンやCRMの基本は「あなただけのために、あなただけの商品・サービスを提供する」ことですから、これを実現するために企業はモノ作りそのもののインフラから変えなくてはなりません。しかし、カスタマイズした製品を提供する環境やビジネスの仕組みを変えるには、3年以上かかります。2000年以降、この取り組みを進めている企業は多いのですが、実現できているのはごく一部で、全体としてまだ雌伏期と言えます。ですから、CRMの意義や効果が発揮されるのは、むしろこれからです。
インフラやコスト面、ビジネスの仕組みから見て、実効果を求めるのはまだ早いというわけですね。
松下 それと、もはや米企業や米国発のソリューションを手本にしている段階ではないということも、言っておきたい点です。ITバブル崩壊後ここ3年くらいで、ある部分は同じスタートラインに立っていると言えます。モバイルのソリューションは日本の方が先端を走っています。国内でプロトタイプができ、このモデルが逆に米国で展開されるケースが出てきてもいいはずです。ここから先は、CRMについても自らが考え創出していかないと回答が得られないのではないでしょうか。
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