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CTインタビュー

モバイルCRMが
BtoC市場を一気に広げる

熊坂 憲二氏
イーシステム 代表取締役社長

熊坂  憲二氏Photo

「ワイヤレス、とくにモバイルは今後大きく広がるBtoCビジネスのキーテクノロジー。
CRMもこれによって新たな局面に入る」と、イーシステムの熊坂憲二社長は強調する。
シーベル製品を主軸にパッケージによるCRMコンサルティングとSIビジネスで地歩を築いた同社は、
BtoBからBtoCへの戦略ソリューションとしてモバイルCRMを標榜。
携帯電話のインターネットアクセスの利便性追求と、DBによるワン・トゥ・ワンマーケティングを
結びつけた新サービス「クイックアクセス」を推進中だ。

  御社は主力のCRMコンサルティングビジネスに加え、2001年春からワイヤレスソリューションビジネスを本格的に立ち上げていますね。現況からお聞かせください。

熊坂 ビジネスの柱は現在3つあります。コンサルティングを中心にしたCRMビジネスと従来からの小型データベースおよびWeb環境開発ツール(グプタ製品)の販売・サポート、そしてワイヤレスソリューションです。ちなみに、当社の業績は2000年の売り上げが約14億円、経常利益1億3000万円、2001年は売り上げが約38億円、経常利益は4億3500万円を見込んでいます。大幅な伸びを牽引したのはCRMビジネスで、売り上げの85%を占めています。そして10%弱が堅調な伸びを示すセンチュラ関連です。ワイヤレスは立ち上げたばかりであり、まだ6%に過ぎません。しかし、(ワイヤレスは)当社の命運を左右すると言っても過言ではない戦略ビジネスであり、今後大きく伸ばします。

  なぜ、ワイヤレスなのですか。

熊坂 結論から言いますと、ワイヤレスが今後大きく広がるBtoCビジネスのキーテクノロジーだからです。当社の基本ポリシーは、常に新技術を追究し、それを実現するソリューションをお客様企業に提供し続けることです。これは、90年代のダウンサイジング以降、開発環境の整備、インターネット・マルチメディア・オブジェクト指向を実現するアプリケーション提供、そしてCRMパッケージの国内導入と、ITのイノベーションによるビジネスの大きなモデルチェンジと共に歩んできた私自身の生き方でもあります。
 インターネットの登場によって企業内から企業間のBtoBのビジネススタイルが画期的に変革しました。今後さらに一般消費者を巻き込んだBtoCもしくはBtoBtoCへ拡大します。これはCRMビジネスでも同様です。しかし、BtoCビジネスは難しいと言われてきました。しごく当然で、コンシューマ向けの有効なデバイス(情報端末)がなかったからです。ノートPC、PDAにしてもBtoBの延長に過ぎず、主婦層や年配層を含めた本当のCの世界に入り込めていません。
 ところが、携帯電話の爆発的な普及がこれを払拭しました。既に7000万人の保有者、このうち約4000万人以上がインターネットアクセスする巨大市場が現出したのです。ここに目を付けない手はありません。シームレスな環境を整備し、C向けのソリューションを提供することで、CRMでもワイヤレス、つまりモバイルCRMのビジネスが急拡大すると確信しています。

CRMパッケージで先行
シーベルの国内シェアNo.1

  大変興味深い話ですが、ワイヤレスビジネスの前に、まず現在の主力であるCRMコンサルティング、および市場動向についてお聞きします。御社はシーベル製品の国内導入で高い実績を持っておられますが、最近、SAP、E.ピファニー製品も扱い始めました。その狙いは。

熊坂 技術が目まぐるしく進展するなかでシステムを手作りで構築するより、先進パッケージを選択した方がベストと考え、シーベル製品をいち早く国内に持ち込みました。当初は外資系中心で国内企業への導入には苦労しましたが、次第に浸透し、シーベル製品の国内実績のうち金融系では80〜90%を当社が手がけ、また当社のCRMソリューション売り上げでも50%がシーベルです。シーベルを選択した理由は、パッケージソリューションとして業種・業態別モデルを幅広く有する製品は、これまで国内ではシーベルしかなかったからです。
 しかし、今後は製造、製薬販売業など業種の広がりと共に、ERPなどバックオフィスでSAPやオラクルを既に入れている企業がCRMを導入するケースが増えてきます。この場合、これまではバックオフィスとの連携が問題となり、CRM単独というわけにはいきませんでした。しかし、SAPではバージョン3からCRMの切り分けが可能になったことから、2001年11月にパートナー契約を結び、シーベルと共にオペレーショナルなフロント系CRMの強力ツールとして取り扱い始めました。一方、キャンペーンやマーケティング分析など、アナリティカルCRMのニーズも今後高まると見て、同時期にE.ピファニーとも提携しました。

統合CRM化ニーズが拡大
向こう3年は1.5〜2倍伸びる

  CRMは投資対効果が見えにくいと、よく言われていますが、ご見解は。

熊坂 外資、国内を問わず、今後企業が注力すべき方向は2つあります。1つは、当然ながらコスト・価格競争に打ち勝ち、高品質かつ低価格な商品提供をSCMを含めて実現すること。もう1つは、顧客に対して企業バリューをいかに効果的にアピールし、かつ効率的なマーケティングが展開できるかです。モノづくりは自社で全てコントロールできるので、問題点も抽出しやすいのに対して、営業・マーケティング系は競合先と顧客という読みにくい相手を対象に数値目標を立てなくてはいけません。CRM効果が見えにくい要因は結局ここにあります。そもそもCRMを各プロセスに分けた段階で、部門ごとの代替目標が明確化されていないケースが実に多いのです。これでは導入効果は期待できません。
 1人当りの新規獲得コストなど、販売経費の見直しが利益の源泉である金融業では、この点が非常にシビアで、CRMで成功している企業はプロセスごとの数値目標の明確化と全社目標がうまく連携しています。

  CRM市場の今後の成長をどのように見ておられますか。

熊坂 国内市場は米国に3年遅れています。この観点で言うと、向こう3年間は1.5〜2倍の伸びが見込めます。とくにメイン市場は、大企業でパッケージを使ってCRMを実現するエリアです。現在、コールセンター単独のところも営業系、Web、アナリティカル、そしてワイヤレスと、統合CRM化への導入ステップに入っていきます。当社はCRMパッケージでかなりシェアを確保していると自負していますが、引き続きWin-Winのパートナー連携を含めCRMコンサルティングビジネスを伸ばしていきます。
 ただし、中期的にはワイヤレスソリューションビジネスがそれ以上伸びると見込んでいますので、3年後の売り上げ比率はCRMコンサルティングが60%、ワイヤレスが35%、グプタその他が5%とシミュレーションしています。

新サービス「クイックアクセス」で
ワイヤレスをビジネスの柱へ

  さて、戦略ビジネスのワイヤレスソリューションですが、具体的にどのような展開を図っているのですか。

熊坂 現在、携帯電話を利用したビジネスアプリケーションおよびビジネスモデルはほとんど存在していませんので、ここにフォーカスしました。携帯電話をインターネット端末として利用する際の課題は、画面が小さくURL入力に不向きで、目的のサイトにアクセスしづらいことです。これを解決するための新サービス「クイックアクセス」を2001年6月から開始しました。独自に開発した小型の外付けアダプタを携帯電話機の差し込み口(充電時に使用する部分)に装着するだけで、予め登録された携帯サイトへアクセスできます。利用者は、そのため長いURL入力などの手間が省けます。当サービスの導入企業は、個人認証などにより顧客個々のアクセス履歴内容からワン・トゥ・ワンマーケティングが実現できることになります。
 既に、阪急交通社様が当サービスを使って同社ツアー旅行者向けの支援サービス「モバイルトリップ(m-Trip)」をスタートされています。旅行者はアダプタを装着した携帯電話機からネット経由で交通機関、宿泊先などの情報をはじめ、集合時間の連絡、食事の予約に至るまで、特定情報を簡単にやりとりできます。一方、阪急交通社様は、顧客のアクセス内容から食事や観光地の嗜好分析や、サービス改善、新規企画に役立てることが可能です。

  クイックアクセス・サービスによる御社の収益源は。

熊坂 利用企業へのアダプター販売と、このサービスは必ず当社のサーバーを経由して利用企業側のアプリケーションサーバーにリンクされるので、そのサポートフィーです。阪急交通社様の旅行者支援サービスをはじめ人材派遣、商店街向けなど、CRMと連携した用途別のビジネスモデルを現在13モデル持っており、特許申請中です。日本IBM、日本ユニシス、伊藤忠テクノサイエンス(CTC)、といったSIパートナーさんには、このビジネスモデル込みで働きかけ、既存のCRMコンサルティングビジネスとの相乗効果を狙っています。また、CRM以外でも現在、業界ごとの中堅10数社とパートナー契約し、多彩なバリエーション展開を進めています。将来的には、個人情報保護やセキュリティを完全管理した上で、蓄積した膨大な顧客情報を、金融系などの用途別にデータベース化したマーケティングビジネスも視野に入れています。

  なるほど、ワイヤレスをキーにしたソリューションは、やり方次第でビックビジネスになりそうですね。

熊坂 これまで、日本発のITソリューションで成功した例はほとんどありません。この点、ワイヤレスはハードも日本が先行し、OSの付加価値も幸いなことにさほど高くなく、むしろ応用技術が重要な領域です。しかも、ワイヤレスの仕組みは基本的に世界共通で、日本での成功モデルを欧米、アジアでも展開できる可能性を秘めています。
 また、CRMコンサルティングを進める上でも外資系のコンサルファームなどと目に見えて差別化できるキーファクターになり得るのです。 

 

(聞き手・鈴木 信之)



熊坂 憲二  (くまさか けんじ)
イーシステム 代表取締役社長

一橋大学経済学部卒
1970年4月、日本IBM入社
90年9月、日本オラクル設立メンバー、常務取締役
94年9月、日本グプタ(現イーシステム)設立、代表取締役社長
96年7月、日本センチュラ(現イーシステム)取締役会長
97年2月、日本シーベル設立、代表取締役社長
同年7月、米SIEBEL SYSTEMS社上級副社長
2000年2月、日本シーベル、米SIEBELを退任
同年4月、イーシステム代表取締役社長


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