ソフトバンクでは先の熊本地震で初めて実戦投入した災害用気球基地局をはじめ、さまざまな分野で研究開発に取り組んでいます。その中で特に力を入れているものに5Gがあります。
携帯電話の技術は10年サイクルで世代交代をしてきました。現行の4G(LTE/LTE-Advanced)がスタートしたのが2010年ですから、順当に行けば数年後には次の5Gの導入が始まることになります。日本では総務省が2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて5Gサービスを提供する方針を打ち出されていて、我々もそれに合わせて準備を進めています。
5Gでは最大通信速度が10Gbpsを超える超高速・大容量通信、自動運転や遠隔医療などで必要となる超低遅延通信、IoTの本格展開に不可欠な多数同時接続の実現が、目標に掲げられています。モバイルブロードバンドの高速化に主眼が置かれていた4Gに対し、5Gは社会・ビジネスのあらゆるニーズに応え得る高度な通信インフラの実現を狙っている。その実現には無線だけでなくネットワーク全体の高度化が必要です。そのために我々は2つの技術が重要だと考え、研究開発に力を入れています。
1つが空間多重技術のMassive MIMOです。複数のアンテナ素子を利用して電波に指向性を持たせるビームフォーミングを使って、ユーザー1人1人に専用の伝送路(ストリーム)を設けるもので、これにより混雑のない快適な通信が実現できます。
もう1つはネットワークを用途に応じて最適化して提供するために必要となるネットワークスライシングです。加えて、既存の4Gのネットワークをいかに効率よく5Gにマイグレーションしていくかも重要な課題になると、我々は考えています。
さて5Gの商用化は数年先になりますが、我々は今、年2倍というハイペースで伸びるデータトラフィックにどう対処するかなど、さまざまな課題に直面しています。
そこでソフトバンクでは5Gの要素技術を前倒しで導入することで、こうした課題に対処していくことを決め、「5G Project」を立ち上げました。その第1弾が2016年9月に実施した世界初となるMassive MIMOの商用導入です。この技術では多くの独立した伝送路を設けることで基地局の容量を大幅に拡大することができます。我々は今回、基地局側に128素子のアンテナを搭載することで容量を10倍に向上させています。
今回導入したMassive MIMOは、ゴールではありません。5Gではこれをさらに進化させます。ストリーム数を増すことでスループットはさらに向上します。5Gでは超低遅延化によりビームの追従性を改善することができ、制御チャネル(共通チャネル)にもビームフォーミングを適用して屋内を含む到達エリアの拡大が可能になります。これにより長距離伝送に不向きなミリ波、サブミリ波を移動通信でスムーズに利用できるようになります。
我々は、5Gを将来広く使っていただくためには、技術開発だけでなく、新しいユースケースの開拓が重要になると考えており、部内でも検討を進めています。
例えば、5Gの多数同時接続の特性を活かせば、スーパーで売っている商品全てにタグを付けて販売管理だけでなく、消費者がスマートフォンなどを使って冷蔵庫の中の食品の賞味期限を管理するといったことも可能になるのではないでしょうか。
超低遅延通信が実現すれば隊列走行や自動運転も可能になります。これを活用すれば、高速道路などの長距離区間は自動運転、地域の配送は人が運転して行うといった新しい物流の形態を実現できる可能性が出てきます。ソフトバンクでは、技術開発、ユースケース開拓を進め、お客様に喜んでいただける5Gを実現して参ります。
(文責・編集部)