5Gでは、3G/4Gで求められてきた高速・大容量化のみならず、IoTで必要となる膨大な同時接続への対応や省電力化、ミッションクリティカルな用途に対応するための超低遅延・高信頼性など、多くの要件が求められます。IoTを含む多様なアプリケーションに対応できることが5Gの大きな特徴なのです。
高速・大容量化でも2020年代初頭の5Gの初期段階で需要が特に集中するエリアの容量を現在の1000倍に拡大する必要があると我々は見ています。
ノキアでは、5Gに求められるこうした要件は大きく5つの技術要素によって実現されると考えています。
1つは移動通信で使われていない、6GHz以上のセンチメーター波・ミリ波の活用です。こうした高い周波数を実用化することで数10Gbps幅といった広い帯域を新たに移動通信で利用して容量を大きく拡大できる可能性が生まれてきます。センチ波、ミリ波ともにノキアは技術開発に注力しています。
2番目がマッシブMIMOの利用です。この言葉の使われ方には少し曖昧なところがあるのですが、概ね32以上のアンテナ素子を用いて、ネットワーク容量やリンク性能の向上などを実現する技術がこう呼ばれています。特にミリ波などの高い周波数帯では素子数が増えてもアンテナが小さく作れるので、この技術が生きてきます。
3番目が柔軟なフレーム設計です。例えば4Gでは15kHz間隔の多数のサブキャリア(周波数軸)上に1ms単位のフレーム(時間軸)を乗せてデータを送っているのですが、このサブキャリア間隔を75kHzに広げてフレーム長を0.2msに短くすることで遅延時間を大幅に短縮できます。ノキアはこの短いフレームを用いて、その先頭部分でTDDの上下比率などを定義できるようにする新仕様を3GPPに提案しています。
4番目が無線方式の異なる4Gと5Gとの間でのキャリアアグリゲーション(CA)です。5Gはまずトラフィックが集中する都心から整備され、それ以外のエリアは当面4Gでカバーされます。そこで4Gと5Gとの間でCAを組み、通信制御を4G側で行い両者を一体運用することが想定されているのです。これを円滑に行うため、低遅延化など4Gの機能強化も並行して進められます。
5番目が基地局の構成を柔軟な分散アーキテクチャに変えていくことです。4Gではリモート局に無線モジュールだけを置き、センター局で複数の基地局の信号処理をまとめて行うことで、CAや干渉制御を効率的に実現するC-RANと呼ばれる構成がすでに実現されています。このセンター局側のクラウド化が今後進んでいくと見ています。現在は、やりとりする情報量が大きいためリモート局とセンター局間は光ファイバーで結ぶ必要がありますが、クラウドRANでは信号処理の一部をリモート側で行うことで、ギガビットイーサネットなどを使えるようにする構成が議論されていくでしょう。
これに加えて、基地局にコンテンツサーバーの機能を持たせることで遅延を大幅に短縮することが可能になります。ノキアではこうしたソリューションをLiquid Applicationsの名称で展開しており、2015年にはドイツでこれを用いた車車間通信(安全運転支援)の共同トライアルにも参加しています。
ノキアでは5Gに向けたネットワークの進化の方向性として「プログラマブルワールド」というビジョンを掲げています。IoTで全てのモノがネットワークにつながるようになると、つながった先にもインテリジェンスを持った、自動化を進めていくような進化が必要になります。世界そのものがプログラマブルになってくるといったイメージです。こうなるとネットワークもプログラマブルな、例えばアプリケーションと連動してコアネットワークや基地局などの設定を動的に変更できるようなものでなければなりません。こうした世界を我々は5Gに向けて実現していきたいと考えているのです。
(文責・編集部)