移動通信システムは第1世代のアナログ方式(1G)から、デジタル方式の2G、CDMA方式の3Gへと大体10年のライフサイクルで進化してきました。日本や米国などではすでに4GのLTEが主流となっており、2020年の商用化をコミットメントした日本をはじめ、次の5Gに向け世界が動き出しています。本日はこの5Gが、どのような形で実現されるか、そしてインテルがこの分野にどう取り組もうとしているについて述べていきたいと思います。
5Gが必要とされている大きな要因の1つに、劇的な伸びを見せているモバイルトラフィックへの対応があります。2014年の総務省のデータでは、日本のモバイルトラフィックは1年で1.7倍に増えています。現在行われているデータ量の制限が外れれば、伸び率は2倍を超え、トラフィックは10年で1000倍になってしまいます。現在のLTEベースのアーキテクチャではこのトラフィックはとてもさばききれません。
加えて、IoTの実現に向け、膨大な数の多様なデバイスが接続できるようにすることも5Gの大きなテーマです。遠隔手術や自動運転などのミッションクリティカルなアプリケーションをモバイルで実現しようという動きもでてきました。5Gには、こうした多様なニーズに応えることが求められているのです。
こうした要件はどのように実現されるのでしょうか。1000倍のトラフィックに対応できるネットワークを可能にする技術を例に話をしていきましょう。
ネットワーク容量の拡大には(1)周波数帯域の拡大、(2)スモールセルなどによるシステムの高密度化、(3)周波数の有効活用の3つの手法があります。
とはいえ、現在移動通信で利用されている6GHz以下の周波数には新たに移動通信用に割当て可能な帯域はあまり残っていません。(2)(3)だけでは、その効果を掛け算しても容量の拡大はせいぜい数十倍程度です。そこで5Gで注目されているのが、30GHzを超えるミリ波、それよりやや低い準ミリ波の利用技術の開発なのです。ミリ波・準ミリ波では、数十GHz幅といった非常に広い周波数が移動通信用として利用できる可能性があります。ミリ波は減衰が大きいため他のセルへの干渉が小さく(2)の高密度化でも有利です。また、多数のアンテナを用いて容量を拡大するマッシブMIMOの活用などにより(3)の周波数利用効率を大幅に改善できる可能性があります。ミリ波を活用すれば1000倍の容量拡大もそれほど難しいことではなくなります。
ミリ波・準ミリ波は電波の飛びの問題や、RFコンポーネントが高価だったことなどから通信分野ではあまり使われていませんでしたが、15年に入って802.11ad標準をベースとしたWiGigの通信モジュールが数十ドル程度のコストでPCに搭載され、一般消費者にも使われるようになってきました。
こうしたミリ波の技術を、インテルは5Gの端末や基地局などインフラでも展開していきたいと考えています。
5Gをコスト効率よく迅速に実現するにあたり必要とされるもう1つの分野がNFV/SDNです。NTTドコモは2016年からvEPCの実装を始められます。仮想化の流れは通信分野にもどんどん広がっていくことでしょう。
インテルでは「4to1戦略」の名称で、4つのネットワーク関連処理を行えるIAプラットフォームの開発を10年にわたって続けています。我々はこれを活かしてエンド・ツー・エンドで5Gに向けたネットワークの変革に貢献していきたいと考えています。当社はインフラ分野でも、すでにチャイナモバイルの仮想化RANのトライアルやAT&Tの通信インフラとユーザー向けITサービスを統合したクラウドの構築などのプロジェクトに貢献しています。今年7月には2020年の5Gの実用化に向けドコモと協力していくことを発表いたしました。インテルは様々な業界の企業と手を携え、端末からインフラに至る幅広い分野で5Gの実用化に貢献して参ります。
(文責・編集部)