赤字から一転してこの半年間で業績が急回復していますね。2月の信用取引開始以降、顧客注文の約定件数も急増しているようですが。
齋藤 ネット専業証券のシェア(取引高)は3強3弱の時代と呼ばれています。3強は松井証券、DLJディレクトSFG証券、イー・トレード証券。3弱はマネックス証券、日興ビーンズ証券、そして当社ですが、昨年3月に日興ビーンズさんを抜き、今年4月にマネックスさんを抜いて3強に肉薄しつつあります。今上期中には3強の一角を崩せるまで伸びています。
急伸の要因は何ですか。
齋藤 “リスク管理追求型”信用取引というキーワードを全面に押し出し、ビジネスのコンセプトを明確にしたことです。証券界はこれまでチャートを見せて「今買うと儲かりまっせ」という営業を繰り返してきました。これを「うちと取り引きしていただいたら損しませんよ」という発想に転換し、この投資スタイルのメッセージが、個人投資家を中心としたお客様に受け入れられてきたのです。当社は元々CTI/CRMシステムを駆使して、独自の逆指値などバラエティに富んだ発注方式や各種銘柄のポートフォリオに点数付けしてお客様が客観的に判断できるような通知サービスをタイミング良く送ることなどに努めてきましたが、これを改めてリスク管理という視点でスコアリングし、お客様に判断材料を提供しています。返済時手数料無料や逆指値・ダブル指値などの条件注文、期日や証拠金管理のための自動アラート通知といったリスク管理型のサービスをシステムに基づいて展開しているのは、今のところ当社だけです。
逆転の発想の裏にCRM在り、という訳ですね。ビジネスコンセプトを転換するには社内体質も変える必要があると思いますが。
齋藤 今年早々新組織に改編し、すべての業務を洗い直しました。まず、人事制度を変え人事考課を完全にポイント化しました。勤務状況、営業成績などあらゆる要素をすべて数値で評価し、偏差値を付けて標準偏差の中でポジションを示し、給与、昇格に反映させています。そのかわり社内教育カリキュラムは全社員一様に受講チャンスを与えるなど、すべてシステム的に行うことが公正・公平な判断に結びつくと思っています。数値化は会社のカラーになりつつあります。人事考課、銘柄のポートフォリオ、さらにお客様を数値化すれば、数値はDB化できます。そしてDBになったものはさまざまなデバイスと連携させることでサービスとして提供できるわけです。
高ランク顧客は高スキル要員が対応
数値化で客観的評価ができる
顧客の数値化はどのように行っているのですか。
齋藤 当社は創業当初から顧客DBを活用してお客様のランク付けを行っていますがこれを全面的に見直しました。従来の採点パターンでは「立て替え」といった資金を入れ忘れていたような場合、ポイントが下がりました。しかし、取り引き頻度が多くなるほど当然その発生率も高まるわけで、複数条件を加味したうえで数値化するきめ細かな採点基準にしたのです。そして肝心なのは、この数値化をCTIシステムと連動させ、コールセンター管理画面に応対顧客の口座番号と同時にランクが表示される仕組みにしていることです。これによりコールが集中した場合でもランクの高いお客様を優先的に接続し、しかもスキルの高いエージェントに応対させることが可能になります。Eメールの場合も同様でランクの高いお客様から順番に回答していきます。ランクに合わせたスクリプトパターンが組めることで、エージェントは自信を持って対応でき、クロスセリングも非常にしやすくなります。
ランク付けの中身をもう少し詳しく教えてください。
齋藤 当社の口座数は約9万5000(6月時点)ですが、そのお客様一人ひとりに対してプラスマイナスの要素を100点満点でスコアリングし、当社独自の関数を用いてランク付けしています。スコアは顧客DBにリアルタイムトランザクションで蓄積され、ランクが絶えず更新されます。スコアリングの目安は取引高、クレーム回数などと、通話本数、DM郵送コスト、これにプールマネー(潜在預金)情報などを加味し、一言でいうとお客様ごとにP/Lを作っている感じです。そしてスコアとランクの統合DBを作り、このデータをイントラネット、メールフォーム、エージェント画面など各アプリケーションから呼び出せるようにしています。またランクの見せ方は管理者、エージェントなど使う場所により変えています。
顧客にとって点数でランク付けされることに抵抗感はありませんか。
齋藤 もちろんお客様にはランクがもろに判るわけではありません。しかし、常連とそうでない人でサービスを分けることは別に悪いことだと思いません。オンライン証券と既存の証券会社は違うというのは大間違いで、ビジネスモデルそのものと売っているものは同じ。ただ店舗かITを使うかでアプローチが違うだけです。店舗でも常連に対する支店長の応対は大変丁寧です。この支店長の代りをITシステムでカバーしているに過ぎません。むしろ、高ランクのお客様と高スキルのエージェントが自動的にマッチングされる仕組みは、双方にとって歓迎すべきことです。スコアリングで客観的なセグメント分けができていないと、エージェントにとって話しやすいお客様が大事になったり、声の大きなお客様のクレームが重要視されたり、とかく主観が入りがちですから。
顧客DBの“鮮度”を保つ秘訣は
貴重な情報を引き出すサービス
CRMではDBの中身、とくに“鮮度”が問題視されていますが、御社の場合かなり充実しているようですね。
齋藤 利用度の高い情報を貯め込むノウハウにはかなりの自信を持っています。データの鮮度を云々する前に、どうしたらお客様が貴重な情報を自ら入力してくれるかをサービスやビジネスモデルで工夫すること、ここがノウハウです。例えば、当社ではメールで情報をお知らせするだけでなく、音声サービスも行っています。すると、音声でも株価を知りたい人は携帯電話番号を登録してくれます。オンライン証券はいわば通販で、しかも高額商品を扱うわけですから、最も重要なのはお客様といつでもどこでもつながる状態、つまり携帯電話番号が一番知りたい情報なのです。これによって当社は完全前金ではなく与信で株売買ができ、同業他社に比べて与信枠を大きくできるわけです。さらに当社は、個人情報保護のマーク認証「TRUSTe」をいち早く取得しWeb画面などに明示するなどお客様に信頼していただく努力を常に心がけています。だからこそ気持ちよく、しかも確度の高い情報を入力してくれるのです。CTIとCRMの相性の問題がよく指摘されていますが、単純な話で、要はDBを常に“きれい”にしておくこと、そのための仕組みとサービスを充実させることです。
CTI/CRMシステムはどのように構築しているのですか。
齋藤 CTIの部分はUnPBXの「CTstage」を二重化して使っています。IVR機能をフルに活用し、ご注文や株価照会をIVRで95%カバーしています。エージェントが直接応対するコールは1日500〜600件、Eメールは100件ですが、これを10人弱でこなしています。先に言いましたように、高ランクのお客様から優先的に接続することで、CS維持に努めています。また、コール集中時は社員すべてがエージェントになりますから、放棄呼はほとんどゼロです。当社はシステム部門を含め全社員が証券外務員1種資格を取得しています。この他、RDBやWebサーバーといった差別化が図りにくい部分はデファクトのパッケージ製品を用いています。しかし、CRMのアプリケーションはすべてフルカスタマイズです。RDBとExcelさえあれば、DB分析ツールはほとんど自前で作り込めます。この部分は当社のノウハウそのもので、ビジネスの核心だからです。また、世の中の多くのオンラインサービスにはポイント制が組み込まれていますが、その管理部分をアウトソーシングしているケースをよく見受けます。最も肝心なノウハウを外に出してどうするの?と思ってしまいます。アプリ構築や運用を自前で行う考えは今後も変わりません。
効果が上がらないのはトップが悪い
数値データの共有化でCRMは前進する
CRMは効果が見えにくいという話も聞くのですが、原因は何だと思いますか。
齋藤 結論はトップダウンで進めないとダメだということです。よく解らないからコンサルティング会社を呼んで部下に任せ、アウトプットだけ求めるから、「こんなはずでは…」となるのです。顧客管理と対応という、あらゆる会社にとって最も大事で、これがすべてとさえ言えることに、なぜトップが関心を持たないのか。技術がわからないといっても、最近はツールも充実しており英会話に比べればはるかに簡単なはずです。もう1つは数値化です。CRMは非定型業務のため難しい面もありますが、数値化を全社員が認識し共有することで、顧客サービスに結びつけることができます。
最後に当面の目標をお聞かせください。
齋藤 決算数値を含めて各種開示資料を四半期ごとに公表するなど、株式公開を視野に入れた会社運営を強化すること。そして、CTI/CRMでは、システム面はかなりのレベルにきたと自負しているので、人的強化に力を入れエージェントを再教育して、各種コンテストでトップを狙う人材を輩出したいですね。そして、いちいちCRMと言わないまでも、さりげなくCRMが行き届いている会社にしたいです。 |